投資先紹介
CASE STUDY
[成熟企業の再成長支援]自主性を尊重しながら成長を加速し、経営体制も強化
株式譲渡をお考えになるまでの経緯を教えてください。
渡邊
当時、私は監査法人で会計士として働いていましたが、アクトワンヤマイチの創業者である叔父が体調不良になり、1994年に同社の経営を引き継ぐことになりました。「経営を引き受けた以上は、当時150名の社員を幸せにしないといけない」という責任を強く感じていました。
一方で、社長就任後、自分の経営者としての力量は理解し、当社がさらに成長するには、自分一人の力では難しいと感じていました。また、私は創業者ではなかったので、創業家の方々がお持ちになるような、自分の会社に対するこだわりは、そこまで持ち合わせていませんでした。
過去に会計士として働いた経験から、世の中には、非常に優秀な方、経営者としての優れた力量を持ち合わせている方がいる事を知っていました。私は、こうした社外の英知をお借りして、当社にそれを導入できないか、と考えていました。当社が「Good」から「Great」になるために、株式譲渡が必要であれば、躊躇せずにやりたいと考えていました。
経営者になられる前の社外でのご経験が、第三者への株式譲渡に影響されていたのですね。親族内での事業承継に拘りはなかったのでしょうか。
渡邊
先の通り、私は、叔父からの招聘で社長になりましたが、当時叔父には息子がおり、当社の取締役を務めていました。バブル崩壊で経営が傾き、叔父は自信を失い、体調も崩していましたが、息子はまだ20代で社長を任せることはできない、という状況でした。私は41歳で会計士をやっていましたので、叔父は、「まずは私に社長をやらせ、その後息子に引き継げれば」という考えだったと思います。
振り返ると、高度成長期に叔父がこの事業を始めたことは非常によかったのですが、息子に社長業を引き継ぐ準備は全く出来ていませんでした。私が社長に就任した後、2000年4月に当社の業績が一時落ち込んだ時がありました。その時、叔父夫婦の考えに従い、私が社長を引いて会長となり、叔父の息子が社長になりました。
息子は、親の期待に応えたいという思いから、かなり無理をしていたと思います。結局、息子は体を壊してしまい、半年ぐらいで会社に出勤できなくなり、以降は上手く働くことができず、50歳の若さで亡くなりました。親に無理だとはっきり言えれば良かったと思いますが、優しさから言えなかったのだと思います。身内で優秀な人がいればよいのですが、そういった方がいないのに無理やりやらせるのは、不幸な結果を招いてしまう可能性があるように思います。
キャス・キャピタルを株主に迎えるまでの経緯を教えてください。
渡邊
2015年頃から私は更なる成長のため、他社とのM&Aやファンドとの取り組みを考えるようになりました。色々と模索する中で、小宮コンサルタンツの小宮代表からキャス・キャピタルの川村代表の紹介を受けました。川村さんと議論を交わす中で、川村さんやチームメンバーの実直な人柄、会社の成長を真摯に考える姿勢に強く共鳴しました。
「強い会社を作る」というキャス・キャピタルの考え方は、まさに私が目指す考え方でした。単に規模を追い求めて、「大きい会社」を目指すのではなく、「強い会社」を目指す。企業価値を上げ、「Good」から「Great」にする、という考え方に共感し、2016年にキャス・キャピタルと組むことを決断しました。
キャス・キャピタルが派遣するインテグレーションチームとして、アクトワンヤマイチに参画した経緯は。
山下
当時、川村さんから話を聞いた瞬間、「こんないい会社があるのか、ぜひご縁を頂きたい」と思いました。インタビューやデュー・デリジェンスに参加し、現場の雰囲気に触れ、渡邊様からアクトワンヤマイチの最重要KPIである「回収率」(注)とその活用を教えて頂き、感動を覚えました。
当時、インタビュー等でお話を伺い、キャス・キャピタルとして、アクトワンヤマイチの更なる成長に関して、いくつかお役に立てる点があるのではないかと気づきました。
1点目は「回収率」の向上です。当時、既に非常に高い回収率でしたが、それでも保有機材に一定の滞留が見られたため、この滞留在庫を減らすことで、さらに回収率を上げられると思いました。
2点目は売上予測です。今後の需要に即した機材を揃えるために、精緻な売上予測が必要になってくると思いました。「この2点を改善することで、この会社の企業価値はさらに向上するのではないか」という思いで、投資後の方針と計画を提案させていただきました。
(注)「回収率」は、保有機材の投資金額に対するレンタル使用料売上高の割合。
水町
私は2017年4月に、アクトワンヤマイチの取締役CFOとして着任しました。同社に参画した経緯は、2017年1月にキャス・キャピタルとアクトワンヤマイチの株式譲渡契約がまとまり、投資先のCFOを探していたところ、私は前職がひと段落し、次のキャリアを探索している時でしたので、このポジションに応募しました。
アクトワンヤマイチの皆さんとの面談や営業所の見学を通じて、私は、同社の社員教育の素晴らしさを肌身で実感しました。同時に、高い利益率を誇るビジネスモデルに非常に驚いたことをよく覚えています。
また、CFOの採用プロセスが進む中で、キャス・キャピタルから「CFO候補者は他にも複数名いる」と聞かされた時は、非常に驚きました。ですが同時に、株主としてより良いCFOを選ぼうとするその姿勢に、私は共感しました。私も前職での経験で、ファンドはいくつか知っていましたが、ここまで慎重にCFOを見極めるファンドは知りませんでした。
周到且つ徹底して取り組む姿勢の投資ファンドと共に、素晴らしい会社でCFOが出来るというのは良いチャンスだと思い、アクトワンヤマイチ社に参加することを決めました。
ファンドから常勤役員が派遣されてくることに関して、現場の社員の方の受け止め方はどうでしたか。
渡邊
社員に対しては、「外部の英知を借りないと、当社は次のステージへ成長できない」と伝えていました。「今までとは違う角度から、色んな話が出てくると思うが、それは全て会社のレベルアップのため。受け入れて、全力でやっていこう」と話をしていました。
印象的な出来事がひとつあります。キャス・キャピタルの投資実行は2017年1月でしたが、実はその直後の2017年4月に、月次で営業赤字になりました。私自身は、「東京オリンピックに向けて沢山機材を買ったので、減価償却が増えている。売上は春先に落ちるため、4月はかなりの減益、ひょっとしたら赤字なるかもしれない」と、ある程度想像していたのですが、単月とはいえ、赤字に対するキャス・キャピタルの皆さんの反応の大きさを見て、逆に私が驚き、深く反省しました。私の意識が変わり、襟を正す機会になった出来事でした。
また、キャス・キャピタルと一緒になった最初の取締役会で、川村さんから私に対して、「1時間くらい使って、レンタルビジネスの話をして欲しい」と言って頂いたことに、今でも感謝しています。私としては、これまで我々がやってきたことをキャス・キャピタルに知ってもらいたいという思いがありましたが、キャス・キャピタルは自らそれを聞こうという姿勢を見せてくれました。
山下
その時の渡邊さんのお話は非常に記憶に残っています。「レンタルとリースがどのように違うのか」から始まり、レンタルビジネスの原理原則や当社の強みを理解することができ、これから一緒になって価値向上策を実行していく、その基礎となる、本質的な考え方を教えて頂きました。どのようにお客様にための価値を創造していくのか、という大切なことを理解することができました。
「Good」から「Great」へと「飛翔」を目指す過程で、具体的な課題として「新規出店」「新規機材の開発・取扱い」「生産性の向上」「人材育成」の4つに関し、お話を聞かせください。
渡邊
この4つの課題も、キャス・キャピタルと話をする中で認識が固まった課題で、キャス・キャピタルとのかかわりが無ければ、課題を正確に認識できていないままだったかもしれないですね。
新規出店については、得意先であるレンタル会社様に対して、当社は卸であり、「ライバルではなくサポーターです」というポジショニングをはっきりさせて、積極的に新規出店を進めました。また、これまでの営業所の出店だけでなく、設備投資を軽くし、環境変化に柔軟に対応できるサテライト方式(注)という新しい出店形態も開発しました。
新規機材の開発については、従前からメーカーと組んで製品開発をしていましたが、「メーカーに対して何を提供できるのか」を真剣に考えるようになりました。我々がメンテナンスを通じて得たノウハウをメーカーに伝えることで、現場に即した使いやすい製品開発に繋がりました。自分たちの強みを改めて認識できるようになったのです。
生産性について言えば、機材の滞留については、正直に申し上げて、それまで私は少し甘い考えを持っていました。しかしながら、山下さん、水町さんと改めて数字を見ることで、危機感を感じました。キャス・キャピタルの参画以降、最終的に機材の滞留率は半分くらいまで改善しました。滞留率に目を向けさせてくれたことについて非常に感謝しています。
人材については、本当に難しい問題ですね。まず、会社の想い、働き手の想いが一致するような人でないと難しいと思います。翻って、やはり採用は非常に大事で、いくら話をしても思いが伝わらない人も存在し、また、教育制度を充実させてもそれだけではだめで、そこから、自ら行動を起こせる人かが重要と思います。
(注)「サテライト方式」は、3名以下で運営可能な従来に比較して小型の機材センター。
山下
新規出店は、生産性の延長として考えました。どうやったらアクトワンヤマイチの皆さんがハッピーになれるかを考えると、行き着くところは「生産性を上げる」、機材レンタルビジネスの場合、「機材に働いてもらい、機材を寝かせない」ことに尽きるんですね。
「機材が寝てしまう」タイミングの一つが、新規出店でした。全くの新規出店の場合、営業店がすぐに立ち上がり、機材がフル稼働する、というのは現実的には難しいのですが、手をこまねいて出店しないと成長は止まってしまう。その中で、サテライト形式というのは非常に合理的でした。
既存店舗から手が伸びる営業エリアであれば、勝手知ったる状況ですので、需要や機材が稼働する具体的な時期やボリュームも見え、近隣店舗の間で機材の融通もできるのです。この発想で、周辺に店舗がある中で、従来よりも小規模なサテライト形式で出店し、地域を「面」で押さえることで、機材の稼働率が更にあがる。「機材を寝かせない」から行きついた、これも渡邊さんのレンタルの教えから生まれたアイデアです。
初めてのサテライト出店である宇都宮ですぐに黒字が出て、これがアクトワンヤマイチの新たな勝ちパターンだと、確信を持つことが出来ました。この出店は、社員総出で知恵を絞って出てきたアイデアだったので、非常に思い出深いです。
人材については、渡邊さんが素晴らしい人材育成をされていたので、我々はその人材とともに「結果を出す」ことに専念すればよい状態でした。通常、投資先では一時に一つの施策に絞って進めていくのですが、アクトワンヤマイチの場合は人材のレベルが非常に高かったので、最初から複数の施策を同時並行で進め、どんどん結果を生んでいく、過去にない素晴らしい経験をすることができました。
水町
私はCFOとして各営業所の将来予測をしていましたが、投資期間の後半においては、各営業所が自ら、機材の予測、収益予測を出来るところまで成長していました。例えば、「この機材をこの営業所に動かそう、足りないから購入しよう、またこの地域は建築需要が旺盛なので新規出店を計画しよう、その場合は営業所方式が良いか、もしくはサテライト方式が良いのか」という各種検討に対して、社内で活発な議論ができ、且つ、それを速やかに実行に移せるようになったことが、当社の成長の大きな要因です。
象徴的なエピソードとして、名古屋営業所の話があります。名古屋営業所は東西の中間に位置し、過去より東西営業部の間でポテンヒットが生まれやすく、機材の滞留率が高い状況でした。この状況に対して、東西の担当者が自発的に相談し、名古屋の滞留品を東西で自主的に分け合い、進んで整備しようという動きが出てきました。滞留在庫を継続的に減らすには、洗浄や修理などの非常に地味な作業を、継続することが求められます。当時、その話を聞いて、「これは、すごいことが起きているな」と驚きました。
人材については、アクトワンヤマイチの社員は真面目で一生懸命な方が多いのですが、社員全員との個別面談を通して、実は中堅層が疲弊しているという事に気づきました。そこで四半期に一回、全社員対象にアンケートや面談をして、それを基に綿密なメモを作成して渡邊さんと共有し、対応策を協議していました。その中から、サブチーフ制度など、アクトワンヤマイチの新たなキャリアプランの制度を作っていったのです。今でも社員一人ひとりの顔と名前は憶えており、非常に密度の濃い時間を過ごさせてもらいました。
山下
名古屋の件は本当に忘れられない出来事ですよね。会社全体の機材滞留率が約11%のところ、当時、名古屋だけは23%くらいありました。その対応策が、現場からのアイデアとして上がってきた。名古屋の手助けをすると、各自の拠点が手薄になり滞留率は悪くなるが、思い切って会社のためにやってくれたことは、非常に嬉しく感動しました。結果、全体の滞留率の数字もぐっと良くなった画期的な出来事です。
また当時CFOだった水町さんには、営業会議であるフォーキャスト会議を仕切っていただきました。その会議では、売上予測などの数字を見ながら、プロパーの従業員の皆さんからも色々な施策が出てきたので、水町さんには収益改善に非常に貢献頂きました。
キャス・キャピタルと仕事を一緒にしてみてどうでしたか。
渡邊
キャス・キャピタルの仕事ぶりは、会社側が望む本当のハンズオンだと思います。現場で一体となって経営に取り組み、非常に優秀な人材も送っていただきました。実際にここまでやる、ここまでできるファンドは少ないと思います。会社側が望む本当の意味でのハンズオンは、やろうと思ってもなかなか出来る事ではありません。それをやれる能力のあるファンドであること、そしてこのハンズオンの体制を、今後も継続してもらいたいと期待しています。
(注)のれん償却前営業利益