投資先紹介

CASE STUDY

Case 2.

[IPO支援]ベンチャー企業から、将来に亘って持続的に成長できる企業に

社名 : 株式会社デコルテ・ホールディングス 業種 : フォトウェディングサービスを中心とした写真撮影サービス等
当該案件は、第七回(2020年度) JPEAアウォード「写真でコロナに打ち勝ちま賞」を受賞しました。

創業されてから、ファンドを株主に迎えようとお考えになるまでの経緯

小林

小林 2001年に兵庫県の芦屋で創業して、これまでいくつかの事業を手掛けてきました。最初はエステ、続いてリラクゼーション、次いでミニチャペルという形で格安結婚式を始め、その流れで写真の方に力を入れて行くという順番でした。会社の収益の柱は都度変わってきていて、大きく分けて現在のフォトウェディングが4つ目になります。
店舗展開や新しいビジネスを思いついては次々と展開してきたのですが、2015年あたりからそれに伴う内部の管理や採用などの人事のシステムといったバックオフィスの問題を中心に、今後成長して行く上での必要な課題が結構顕著に出てきていました。自分としても、そろそろ会社の内部管理体制を強化していかないと、この先厳しくなってくるのではないかなと考えながら採用活動をしていたのですが、当時の会社や私の人脈のなかでは、それに見合うような良い出会いや採用ができていませんでした。
そうしたなかで、課題を人に相談しているうちに公認会計士の方からのご紹介で、「キャス・キャピタルさんであれば課題解決の選択肢を提案できるかもしれないので会ってみませんか」という形でご縁をいただいたのが2016年の6月。これが始まりです。ですからその時点では売却ありきではありませんでした。当然我々に全く興味を持ってもらえない可能性もありましたしね。その後はとんとん拍子に話が進んで半年ほどでキャス・キャピタルとご一緒することに決まりました。

小林

キャス・キャピタルが派遣するインテグレーションチームとして、デコルテ・ホールディングスに参画した経緯

山下

最初は社外からでしたが途中から常勤になりました。キャス・キャピタルでは、投資先への関わり方の度合いは状況によって使い分けています。我々が入らなくてもやるべきことが明確で順調に進んでいれば社外から。とは言っても常駐派遣するなどより深く入る会社も三社に一社くらいはあります。デコルテの場合には、非常に魅力的な会社で、目指すところも高く、我々が社長のすぐそばで直接お手伝いできることが明確でしたのでしっかり関わることになりました。
私の役割は数字を上げることでした。それも、短期的ではなく将来にわたって売上と利益をあげることです。そのため特定の管掌部門は基本的になく、何にでも関わるという感じでした。とはいえ始めは主に営業面を担当していたので、予測や数字の分析を用いながら一定の営業プロセスを一回テスト的にやってみて、それからそのプロセスをうまく回せる人を小林社長と一緒に採用して、チームを作っていくところも、一緒に取り組みました。経緯があって途中から一時ウェブサイトの制作チームが管掌になったこともありましたね。そのような形で、小林社長と本当に一緒に二人三脚をさせていただいたという感じです。

新井

新井

私はもともと別の会社にいたのですが、以前から川村さん、山下さんとお付き合いがあり、デコルテに投資をするという段になって正式に誘っていただいて、キャス・キャピタルに入りました。最初は出向という形でデコルテに入り、上場を控えたところで転籍しています。

山下

新井さんはタリーズコーヒーのCFOとして上場、MBO、売却を手掛けられた三冠王です。一方、デコルテも小林社長が仰っていた管理が課題で、規模や将来にあったものを一から作らないといけないという状況でした。そのため、これは絶対に凄腕のCFOの方が必要で、そういう人を我々が採用して一緒にやれれば成功するというイメージを持ちました。それで以前からお付き合いのあった新井さんを口説いて参加してもらったわけです。

新井

私としても、出来上がった会社よりも、一緒に仕組みを作り上げて成長を実現することが好きということもあり、二つ返事でお受けしました。

ファンドから常勤役員として会社に入ってくることに対して、現場の社員の方の受け止め方はどうでしたか。また社長の動き方はどう変わりましたか。

小林

最初はまあ、「およ」みたいなのはありますよね(笑)。だからといって気を使いすぎて、あんまり緩やかに、その、「ふわっ」と入ったり、接触頻度が少なかったりするとお互い様子見にもなると思うのですが、特にお二方に関しては最初から「がっ」と入っていらっしゃったので、どういう人かは周りに分かりやすかったのだと思います。また、「こういうことをやって行くよ」という目的は社内にしっかり伝えていたので、そういう意味では思いのほか動揺や拒否反応のようなものはありませんでした。
私一人で目の届く範囲は限られていますし、苦手なものが手つかずのまま宿題になって残っていたのですが、そこは新井さんが対応していってくれました。ファンドの人の入り方としてしっかりと、しかし慎重に進めていただけたことも大きいと思います。大きな目的を共有したうえで入っていただきましたが、やっぱり我々は人が納得して働いて、人が価値を生み出すような仕事ですから、そこを理解していただいて、人に時間を使ってもらいました。入るタイミングでも、入った後も、今日現在も、新井さんには、人のケアといいますか、人に時間を使っていただいています。
私自身としては、やり散らかすことが少なくなったと思います(笑)。ちゃんと考えて動くよう、自制がきくようになったというんでしょうか。一人で経営していたときには、興味のままに事業を展開して、「ちょっとちゃうな」と感じたらそのままにしてしまうようなことが自分の課題としてあったんですが、私も体制が変わらないままでは自分も変われないっていう自覚がありましたので、キャピタルに入っていただいて、体制が変わることで自分も変われたことが良かったです。
また、チームとして動かしていかなければいけないとか、自分が直接携わらなくても動けるチーム作りを常に意識するようになりました。今までは私が決めてそれを伝えて、やってもらって進むという感じでした。それはそれでスピードは速いのですが、長い目で見るとやっぱり自分が常に正しいわけではない、ということも認識しました。

投資期間中に事業ポートフォリオを整理して、フォトウェディング事業に経営資源を集中された経緯をお聞かせください。

山下

デコルテの事業のなかにはコロナ禍にあっても比較的元気な事業とそうでもない事業がありました。小林社長とそのあたりも腹を割って話をさせていただきながら、比較的早く止めた方がいいものや、売却などで他の親元に行った方が良いものを明確にし、時間をかけながら順次閉じたり譲渡したりして来ました。挙式関係の事業では、とても魅力的なWAKON STYLEという神前挙式のサポート事業があったので、当初はこれと結婚写真の2本柱でいこうということになっていました。
しかし、やはりコロナによって全く様相が違ってきたので、ここは大胆に舵を切るしかないという判断に変わりました。かたやWAKON STYLEはこういう会社にお譲りすれば事業として弾みがつくというイメージがあり、具体的に譲渡のお話を進めることになりました。これは大きな意思決定だったのですが、小林社長とよく話し合い、基本的には皆さんあまり違和感なく総意で「この状況、このタイミングなので、それがいい」という結論になりました。

  • フォトウェディング事業
  • フォトウェディング事業
  • フォトウェディング事業
  • フォトウェディング事業

新井

事業ポートフォリオを整理した結果、現在の会社の売上の95%はフォトウェディングとなっていますが、いまだにウェディングのイメージでとらえられることもあります。結果的に挙式の部分をなくし、フォトウェディングというこれから伸びる分野にフォーカスしたことは、IPOにあたってミーティングをした投資家からは非常によく理解していただいていると思います。

山下

改めて考えると、写真というのはビジネス的にありがたい商材です。撮った瞬間からずっと残していくという目的があって、動画とはまた違って行間があるといいますか、写真を見て色々思い出すことができます。人間の記憶って曖昧なので、一緒に写真を見て「この時こうだったよね」と鮮明に思い出されることも結構面白いなと思います。やっぱり始めてみて写真っていうのは結構奥深い。
これからも写真はなくならいと思うし、カメラマンもずっとカメラマンを飽きずに続けていることが不思議だったのですが、カメラマンのイメージと、実際に撮れた写真が若干ずれたりするんですね。あれも味のひとつなんでしょうし、同じものは二つとできない。そういうところがカメラマンにとっても面白い部分なのかもしれないです。

山下

山下

しかも、相対的にいえば日本における写真ビジネスの普及は未だ遅れています。例えば中国では、結婚写真はかなり普及していてほぼ100%です。対して日本の場合だとこういう別撮りはいまのところ50%ぐらいです。これでも上がってきてはいるのですが、まだまだ伸びしろがあります。中国では、披露宴をやってもそれとは別に写真を撮っているので、かなりのお金を使っています。写真はいろいろな形で海外の方が普及している、逆に言うと日本はまだそこまで行っていないので、もっと成長できると思います。

小林

2018年のデータで日本は53%なのですが、これから徐々に上がっていくと思います。我々が始めたときは、別撮りというマーケットはかなり小さかったので、正式にはデータを取っていないのですが、おそらく10%くらいからの出発だったと思います。会社のテーマとして、自分たちが中心になって何か一つの文化を残すということ、これはやりがいのある仕事だと思っています。
こども撮影なども、まずは一年一回を目的としたスタジオを作っています。既存の大手写真館は七五三を重視していますが、やはり我々のスタッフと顧客との関係性を築いていき、毎年撮りに来ていただけるようなスタジオを目指したい。そうすればシェアを奪いに行くゲームではなく、マーケットを大きくしながら新たな写真文化を作れるのではないかと思っています。
家族写真もお手本はアジアという形で輸入してきているのですが、中国では一年に一回どころではなく、1ヶ月目、3ヶ月目、6ヶ月目、1年みたいな感じで撮っています。香港も53%で、日本と変わらないように見えますが、実は彼らは2回とか 3回とか撮るので 厳密にいうと180%くらいになっています。

経営者としてIPOを経た心持ちの変化について教えてください。

小林

上場がどれほど大変なことか、まったくわかっていませんでした(笑)。自分で創業したタイミングでは、上場することなど考えていませんでしたし、またできるとも思っていませんでした。ところがキャスさんからお話を伺って、チャンスがあるのであれば、大変かもしれないけれども得られるものもあるでしょうし、誰しもが経験できることではありませんし、良い機会だと思いました。上場する前は、売上と利益が出ていたとしても、会社の存在を知られていないと、アイデアを役所や提携先に持ちかけてもなかなか聞いてもらえないことが多かったんです。サービスを広げていく上では、上場したことの効果は大きいのもがありますね。
あとは自分の流儀として、あんまり波に逆らわないといいますか、ある程度大きな波には流されながらいこうと思っていました。自分で波を起こすよりは、来ている波に乗ろうという感じです。上場してみると、キャス・キャピタルの人たちがごっそりと抜けて、一株主の立場からきっちりフェアにやろうという関係に変わりました。なるほどこういうことか、とも思いますが、やっぱりちょっと寂しいなあっていうのはありますね。

貴社の特徴のひとつである、フォトグラファーやメイクアップアーティストの採用、内製化について教えてください。

新井

比較的早い時期に人事制度を見直しました。明確な評価制度がなかったのですが、フォトグラファー等については明確に等級の上がる技術の基準などを作りました。今もちょっと厳しすぎるのではないかと思うくらいのチェックポイントを設けており、エキスパートのフォトグラファー、メイクアップアーティストとしての等級制度を整えて、技術が備わった人はきちんと給料が上がるような仕組みにしました。育成に関しては技術管理部という部署ができ、そこにトレーナーが何人かついて教える仕組みを作るなど体系立ててできるようになっています。

メイクアップアーティスト

山下

以前からフォトグラファーなどの腕の良い人が指導して、1年ほどたったら実際にお客様も撮れるようになり、3年ぐらいで一人前になるといういわゆる OJTの仕組みはありました。そこを出発点にして我々が行ったのは、数字の目標を置いたり、スピード感をもって採用と育成をするようなプロセスの管理をしたりすることです。調べた限りだと、プロのフォトグラファーを我々よりも多く社員として抱えている会社は海外も含めて見つからないので、非常に珍しいモデルだと思います。しかも素人も含めて受け入れて育てることができるシステムであり、そこが魅力です。フォトグラファーさんは、素人からプロに育成するケースが多いので、そこは採用プロセスでしっかりいい人を見極めていこうとしています。

新井

上場してはいますけど、撮影に関しては結構自由に仕事をしてもらっています。あまりカチッカチッとする雰囲気より、本当に好きなことをやってもらっています。あまり締め付けずに、自由にやっていただいていると思います。

山下

フォトグラファーの方やメイクの方などを管理する組織体制は、いわゆる営業的な稼働率などの縦のラインと、教育や指導をベースとしたフォトグラファーさんの自治の世界の横のラインがあります。各店舗には店長がいますが、日々の指導に関してはトレーナーという店舗で一番腕の良いフォトグラファーが行います。それは一定の自治をもって自立して行う仕組みとなっています。やはり一定の自由度や自立、自主性を否定すると、大勢の方たちが気持ちよく残っていただくことはできないと思います。そこは小林社長がやってこられたことを尊重する形で仕組み化しました。
営業に関する管理であればいくらでもアイデアがあるのですが、今回のようなアーティストのスキルに関する管理のケースだと分からなかったというのが率直なところです。やはり、フォトグラファーの方の管理に関しては、小林社長が実際に時間をかけて作ってこられた形が非常に合理的だったということです。腕の良いフォトグラファーの方が突然失踪して、何食わぬ顔をして帰ってくるなど、腰が抜けそうな話を淡々と小林社長がされていたのですが、その懐の深さがないとフォトグラファーの方たちをマネージして持続可能にしていくことはできないのだと実感しました。

小林社長から、キャス・キャピタルとの関係を改めて振り返るといかがでしょうか。

小林

今回の出会いは、ご縁だった、必然だったのかなっていうふうに思います。縁を大切にし、流れに逆らわない。そのように考えて人生を送るようにしています。

(注)記事の内容は、JPEAアウォードのインタビュー内容を引用しています。